Tuesday, December 31, 2019

Soseki Natsume: Ten Nights of Dreams: The Sixth Night (Ruby)



夢十夜ゆめじゅうや



第六夜だいろくや



夏目なつめ漱石そうせき



運慶うんけい護国寺ごこくじ山門さんもん

仁王におうきざんでいると評判ひょうばんだから、

散歩さんぽながらってると、

自分じぶんよりさき

もう大勢おおぜいあつまって、

しきりに下馬評げばひょうをやっていた。



***



山門さんもんまえ五六間ごろっけんところには、

おおきな赤松あかまつがあって、

そのみき

ななめに山門さんもんいらかかくして、

とお青空あおぞらまでびている。



まつみどり朱塗しゅぬりもん

たがいにうつってみごとにえる。



そのうえまつ位地いちい。



もんひだりはし眼障めざわりにならないように、

はすってって、

うえになるほどはばひろ

屋根やねまで突出つきだしているのが

なんとなく古風こふうである。



鎌倉時代かまくらじだいともおもわれる。



***



ところがているものは、みんな自分じぶんおなじく、

明治めいじ人間にんげんである。



そのうちでも車夫しゃふ一番いちばんおおい。



辻待つじまちをして

退屈たいくつだからっているに相違そういない。



***



おおきなもんだなあ」とっている。



人間にんげんこしらえるよりもよっぽど

 ほねれるだろう」

ともっている。



***



そうかとおもうと、

「へえ仁王におうだね。

 いまでも仁王におうるのかね。

 へえそうかね。

 わっしゃまた

 仁王におうはみんなふるいのばかりかとおもってた」

ったおとこがある。



***



「どうもつよそうですね。

 なんだってえますぜ。

 むかしからだれつよいって、

 仁王におうほどつよひといって

 いますぜ。



 なんでも日本武尊やまとだけのみことよりも

 つよいんだってえからね」

はなしかけたおとこもある。



このおとこしり端折はしょって、

帽子ぼうしかぶらずにいた。



よほど無教育むきょういくおとこえる。



***



運慶うんけい見物人けんぶつにん評判ひょうばんには

委細いさい頓着とんじゃくなく

のみつちうごかしている。



いっこうきもしない。



たかところって、

仁王におうかおあたり

しきりにいてく。



***



運慶うんけい

あたまちいさい烏帽子えぼしのようなものをせて、

素袍すおうだかなんだかわからないおおきなそで

背中せなかくくっている。



その様子ようすがいかにもふるくさい。



わいわいってる見物人けんぶつにんとは

まるであいれないようである。



自分じぶんはどうしていま時分じぶんまで

運慶うんけいきているのかなとおもった。



どうも不思議ふしぎことがあるものだとかんがえながら、

やはりってていた。



***



しかし運慶うんけいほうでは

不思議ふしぎとも奇体きたいともとんとかんない様子ようす

一生懸命いっしょうけんめいっている。



仰向あおむいて

この態度たいどながめていた一人ひとりわかおとこが、

自分じぶんほういて、

「さすがは運慶うんけいだな。

 眼中がんちゅう我々われわれなしだ。

 天下てんか英雄えいゆう

 ただ仁王におうれとあるのみと態度たいどだ。

 天晴あっぱれだ」

ってした。



***



自分じぶんはこの言葉ことば面白おもしろいとおもった。



それでちょっとわかおとこほうると、

わかおとこは、すかさず、

「あののみつち使つかかたたまえ。

 大自在だいじざい妙境みょうきょうたっしている」

った。



***



運慶うんけいいまふとまゆ

一寸いっすんたかさによこいて、

のみたてかえすやいなすに、

うえからつちおろした。



かたきざみにけずって、

あつ木屑きくず

つちこえおうじてんだとおもったら、

小鼻こばなのおっぴらいたいかばな側面そくめん

たちまちがってた。



そのとうかた

いかにも無遠慮ぶえんりょであった。



そうしてすこしも疑念ぎねんさしはさんでおらんように

えた。



***



「よくああ無造作むぞうさのみ使つかって、

 おもうようなまみえはなができるものだな」

自分じぶんはあんまり感心かんしんしたから

独言ひとりごとのようにった。



するとさっきのわかおとこが、

「なに、あれはまみえはなのみつくるんじゃない。

 あのとおりのまみえはな

 なかうまっているのを、

 のみつちちからすまでだ。



 まるでつちなかからいし

 すようなものだから

 けっして間違まちがうはずはない」

った。



***



自分じぶんはこのときはじめて

彫刻ちょうこくとはそんなものかとおもした。



はたしてそうなら

だれにでもできることだとおもした。



それできゅう自分じぶん

仁王におうってみたくなったから

見物けんぶつをやめてさっそくうちかえった。



***



道具箱どうぐばこから

のみ金槌かなづちして、

うらると、

せんだっての暴風あらしたおれたかしを、

まきにするつもりで、

木挽こびきかせた手頃てごろやつが、

たくさんんであった。



***



自分じぶん一番いちばんおおきいのをえらんで、

いきおいよくはじめてたが、

不幸ふこうにして、仁王におう見当みあたらなかった。



そのつぎのにも

運悪うんわるてることができなかった。



三番目さんばんめのにも仁王におうはいなかった。



自分じぶんんであるまき

かたぱしからってたが、

どれもこれも仁王におうかくしているのはなかった。



ついに明治めいじには

とうてい仁王におううまっていないものだとさとった。



それで運慶うんけい今日きょうまできている理由りゆう

ほぼわかった。





Reading Japanese Literature in Japanese
This series is for the people/students who want to learn Japanese.


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