Thursday, December 26, 2019

Soseki Natsume: Ten Nights of Dreams: The First Night (Ruby)



夢十夜ゆめじゅうや

夏目なつめ漱石そうせき



第一夜だいいちや



こんなゆめた。



***



腕組うでぐみをして枕元まくらもとすわっていると、

仰向あおむきおんなが、

しずかなこえでもうにますとう。



おんなながかみまくらいて、

輪郭りんかくやわらかな瓜実うりざねがお

そのなかよこたえている。



真白まっしろほほそこ

あたたかいいろがほどよくして、

くちびるいろ無論むろんあかい。



とうていにそうにはえない。

しかしおんなしずかなこえで、

もうにますと判然はっきりった。



自分じぶんたしかにこれはぬなとおもった。



そこで、そうかね、もうぬのかね、

うえからのぞむようにしていてた。



にますとも、

いながら、おんなはぱっちりとけた。



おおきなうるおいのあるで、

ながまつげつつまれたなかは、

ただ一面いちめん真黒まっくろであった。



その真黒まっくろひとみひとみに、

自分じぶん姿すがたあざやかかんでいる。



***



自分じぶんとおるほどふかえる

この黒眼くろめ色沢つやながめて、

これでもぬのかとおもった。



それで、ねんごろにまくらそばくちけて、

ぬんじゃなかろうね、大丈夫だいじょうぶだろうね、

とまたかえした。



するとおんな

くろねむそうに見張みはったまま、

やっぱりしずかなこえで、

でも、ぬんですもの、仕方しかたがないわとった。



***



じゃ、わたしかおえるかい

一心いっしんくと、

えるかいって、そら、そこに、うつってるじゃありませんかと、

にこりとわらってせた。



自分じぶんだまって、かおまくらからはなした。



腕組うでぐみをしながら、どうしてもぬのかなとおもった。



***



しばらくして、おんながまたこうった。



んだら、めてください。



 おおきな真珠貝しんじゅがいあなって。



 そうしててんからちてほし破片かけ

 墓標はかじるしいてください。



 そうしてはかそばっていてください。



 またいにますから」



***



自分じぶんは、いついにるかねといた。



***



るでしょう。



 それからしずむでしょう。



 それからまたるでしょう、そうしてまたしずむでしょう。



 ――あかひがしから西にしへ、

 ひがしから西にしへとちてくうちに、



 ――あなた、っていられますか」



***



自分じぶんだまって首肯うなずいた。



おんなしずかな調子ちょうし

一段いちだんげて、

百年ひゃくねんっていてください」

おもったこえった。



百年ひゃくねんわたしはかそばすわって

 っていてください。



 きっといにますから」



***



自分じぶんはただっているとこたえた。



すると、くろひとみのなかに

あざやかえた自分じぶん姿すがたが、

ぼうっとくずれてた。



しずかなみずうごいて

うつかげみだしたように、

ながしたとおもったら、

おんながぱちりとじた。



ながまつげあいだから

なみだほほれた。



――もうんでいた。



***



自分じぶんはそれからにわりて、

真珠貝しんじゅがいあなった。



真珠貝しんじゅがいおおきななめらかな

ふちするどいかいであった。



つちをすくうたびに、かいうら

つきひかりしてきらきらした。



湿しめったつちにおいもした。



あなはしばらくしてれた。



おんなをそのなかれた。



そうしてやわらかいつちを、うえからそっとけた。



けるたびに真珠貝しんじゅがいうら

つきひかりした。



***



それからほし破片かけちたのをひろってて、

かろくつちうえせた。



ほし破片かけまるかった。



ながあいだ大空おおぞらちているに、

かどれてなめらかになったんだろうとおもった。



げてつちうえくうちに、

自分じぶんむねすこあたたかくなった。



***



自分じぶんこけうえすわった。



これから百年ひゃくねんあいだこうしてっているんだな

かんがえながら、腕組うでぐみをして、

まる墓石はかいしながめていた。



そのうちに、おんなったとお

ひがしからた。



おおきなあかであった。



それがまたおんなったとおり、

やがて西にしちた。



あかいまんまでのっとちてった。



ひとつと自分じぶん勘定かんじょうした。



***



しばらくするとまた唐紅からくれない天道てんとう

のそりとのぼってた。



そうしてだまってしずんでしまった。



ふたつとまた勘定かんじょうした。



***



自分じぶんはこうふう

ひとふたつと勘定かんじょうしてくうちに、

あかをいくつたかわからない。



勘定かんじょうしても、勘定かんじょうしても、

しつくせないほどあか

あたまうえとおしてった。



それでも百年ひゃくねんがまだない。



しまいには、こけえたまるいしながめて、

自分じぶんおんなだまされたのではなかろうか

おもした。



***



するといししたからはす

自分じぶんほういて

あおくきびてた。



ながくなって

ちょうど自分じぶんむねのあたりまでまった。



おもうと、すらりとゆらくきいただきに、

心持こころもちくびかたぶけていた

細長ほそなが一輪いちりんつぼみが、

ふっくらとはなびらひらいた。



真白まっしろ百合ゆりはなさき

ほねこたえるほどにおった。



そこへはるかうえから、ぽたりとつゆちたので、

はな自分じぶんおもみでふらふらとうごいた。



自分じぶんくびまえして

つめたいつゆしたたる、しろ花弁はなびら

接吻せっぷんした。



自分じぶん百合ゆりからかおはな拍子ひょうし

おもわず、とおそらたら、

あかつきほしがたったひとまたたいていた。



***



百年ひゃくねんはもうていたんだな」

とこのときはじめてがついた。







Reading Japanese Literature in Japanese
This series is for the people/students who want to learn Japanese.


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