Friday, December 27, 2019

Soseki Natsume: Ten Nights of Dreams: The Second Night (Ruby)



夢十夜ゆめじゅうや

夏目なつめ漱石そうせき



第二夜だいにや



こんなゆめた。



***



和尚おしょうしつ退がって、

廊下ろうかづたいに自分じぶん部屋へやかえると

行灯あんどうがぼんやりともっている。



片膝かたひざ座蒲団ざぶとんうえいて、

灯心とうしんてたとき、

はなのような丁子ちょうじ

ぱたりと朱塗しゅぬりだいちた。



同時どうじ部屋へやがぱっとかるくなった。



***



ふすま蕪村ぶそんふでである。



くろやなぎうすく、

遠近おちこちとかいて、



むそうな漁夫ぎょふ

かさかたぶけて土手どてうえとおる。



とこには

海中文殊かいちゅうもんじゅじくかかっている。



のこした線香せんこう

くらほうでいまだににおっている。



ひろてらだから森閑しんかんとして、

人気ひとけがない。



くろ天井てんじょう丸行灯まるあんどう

まるかげが、

仰向あおむ途端とたんきてるようにえた。



***



立膝たてひざをしたまま、

ひだり座蒲団ざぶとんめくって、

みぎんでると、

おもったところに、ちゃんとあった。



あれば安心あんしんだから、蒲団ふとんをもとのごとくなおして、

そのうえにどっかりすわった。



***



まえさむらいである。



さむらいならさとれぬはずはなかろう

和尚おしょうった。



そういつまでもさとれぬところをもってると、

御前おまえさむらいではあるまいとった。



人間にんげんくずじゃとった。



ははあおこったなとってわらった。



口惜くやしければさとった証拠しょうこって

ってぷいとむこうをむいた。



しからん。



***



となり広間ひろま

とこえてある置時計おきどけい

つぎときつまでには、

きっとさとってせる。



さとったうえで、今夜こんやまた入室にゅうしつする。



そうして和尚おしょうくびさとりと

引替ひきかえにしてやる。



さとらなければ、和尚おしょういのちれない。



どうしてもさとらなければならない。



自分じぶんさむらいである。



***



もしさとれなければ自刃じじんする。



さむらいはずかしめられて、

きているわけにはかない。



綺麗きれいんでしまう。



***



こうかんがえたとき

自分じぶん

またおもわず布団ふとんした這入はいった。



そうして朱鞘しゅざや短刀たんとう

した。



ぐっとつかにぎって、

あかさやむこうはらったら、

つめたい

一度いちどくら部屋へやひかった。



すごいものが手元てもとから、

すうすうとげてくようにおもわれる。



そうして、ことごとく切先きっさきあつまって、

殺気さっき一点いってんめている。



自分じぶん

このするどが、

無念むねんにもはりあたまのようにちぢめられて、

九寸くすん五分ごぶさき

やむをえずとがってるのをて、

たちまちぐさりとやりたくなった。



身体からだ

みぎ手首てくびほうながれてて、

にぎっているつかがにちゃにちゃする。



くちびるふるえた。



***



短刀たんとうさやおさめて

右脇みぎわききつけておいて、

それから全伽ぜんがんだ。



――趙州じょうしゅういわと。



とはなんだ。



糞坊主くそぼうずめとはがみをした。



***



奥歯おくばつよめたので、

はなからあついきあらる。



こめかみがっていたい。



普通ふつうばいおおきくけてやった。



***



懸物かけものえる。



行灯あんどうえる。



たたみえる。



和尚おしょう薬缶頭やかんあたまがありありとえる。



鰐口わにぐちいて嘲笑あざわらったこえまで

きこえる。



しからん坊主ぼうずだ。



どうしてもあの薬缶やかんくびにしなくてはならん。



さとってやる。



だ、だとしたねんじた。



だとうのにやっぱり線香せんこうにおいがした。



なん線香せんこうのくせに。



***



自分じぶんはいきなり拳骨げんこつかためて

自分じぶんあたまをいやとうほどなぐった。



そうして奥歯おくばをぎりぎりとんだ。



両腋りょうわきからあせる。



背中せなかぼうのようになった。



ひざ接目つぎめきゅういたくなった。



ひざれたってどうあるものかとおもった。



けれどもいたい。



くるしい。



はなかなかない。



るとおもうとすぐいたくなる。



はらつ。



無念むねんになる。



非常ひじょう口惜くやしくなる。



なみだがほろほろる。



ひとおもい大岩おおいわうえにぶつけて、



ほねにくもめちゃめちゃにくだいてしまいたくなる。



***



それでも我慢がまんしてじっとすわっていた。



えがたいほどせつないものを

むねれてしのんでいた。



そのせつないものが

身体からだじゅう筋肉きんにく

したから持上もちあげて、

毛穴けあなからそと

ようようとあせるけれども、

どこも一面いちめんふさがって、

まるで出口でぐちがないような

残刻ざんこくきわまる状態じょうたいであった。



***



そのうちにあたまへんになった。



行灯あんどう蕪村ぶそんも、

たたみも、違棚ちがいだな

っていような、くってるようにえた。



ってはちっとも現前げんぜんしない。



ただ好加減いいかげんすわっていたようである。

ところへ忽然こつぜんとなり座敷ざしき時計とけい

チーンとはじめた。



***



はっとおもった。



みぎをすぐ短刀たんとうにかけた。



時計とけいふたをチーンとった。







Reading Japanese Literature in Japanese
This series is for the people/students who want to learn Japanese.


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