Sunday, December 29, 2019

Soseki Natsume: Ten Nights of Dreams: The Fourth Night (Ruby)



夢十夜ゆめじゅうや



夏目なつめ漱石そうせき



第四夜だいよんや



ひろ土間どま真中まんなか

すずだいのようなものをえて、

その周囲まわりちいさい床几しょうぎならべてある。



だい黒光くろびかりにひかっている。



片隅かたすみには

四角しかくぜんまえいて

じいさんが一人ひとりさけんでいる。



さかなしめらしい。



***



じいさんはさけ加減かげんでなかなかあかくなっている。



そのうえ顔中かおじゅうつやつやして

しわうほどのものはどこにも見当みあたらない。



ただしろひげをありたけやしているから

年寄としよりことだけはわかる。



自分じぶん子供こどもながら、

このじいさんのとしはいくつなんだろうとおもった。



ところへうらかけひから

手桶ておけみずんでかみさんが、

前垂まえだれきながら、

御爺おじいさんはいくつかね」

いた。



じいさんは頬張ほおばった煮〆にしめんで、

「いくつかわすれたよ」

ましていた。



かみさんはいたを、

ほそおびあいだはさんで

よこからじいさんのかおっていた。



じいさんは茶碗ちゃわんのようなおおきなもので

さけをぐいとんで、

そうして、ふうとながいき

しろひげあいだからした。



するとかみさんが、

御爺おじいさんのうちはどこかね」

いた。



じいさんはながいき途中とちゅうって、

へそおくだよ」とった。



かみさんは

ほそおびあいだ突込つっこんだまま、

「どこへくかね」

とまたいた。



するとじいさんが、

また茶碗ちゃわんのようなおおきなもので

あつさけをぐいとんで

まえのようないきをふうといて、

「あっちへくよ」

った。



***



真直まっすぐかい」

かみさんがいたとき

ふうといたいきが、

障子しょうじとおして

やなぎしたけて、

河原かわらほう真直まっすぐった。



***



じいさんがおもてた。



自分じぶんあとからた。



じいさんのこし

ちいさい瓢箪ひょうたんがぶらがっている。



かたから四角しかくはこ

わきしたるしている。



浅黄あさぎ股引ももひき穿いて、

浅黄あさぎ袖無そでなしをている。



足袋たびだけが黄色きいろい。



なんだかかわつくった足袋たびのようにえた。



***



じいさんが真直まっすぐやなぎしたまでた。



やなぎした子供こども三四人さんよにんいた。



じいさんはわらいながら

こしから浅黄あさぎ手拭てぬぐいした。



それを肝心綯かんじんよりのように細長ほそながった。



そうして地面じびた真中まんなかいた。



それから手拭てぬぐい周囲まわりに、

おおきなまるいた。



しまいにかたにかけたはこなかから

真鍮しんちゅうこしらえた飴屋あめやふえ

した。



***



いまにその手拭てぬぐいへびになるから、ておろう。

 ておろう」

繰返くりかえしてった。



***



子供こども

一生懸命いっしょうけんめい手拭てぬぐいていた。



自分じぶんていた。



***



ておろう、ておろう、いか」

いながら

じいさんがふえいて、

うえをぐるぐるまわした。



自分じぶん手拭てぬぐいばかりていた。



けれども手拭てぬぐいはいっこううごかなかった。



***



じいさんはふえをぴいぴいいた。



そうしてうえ何遍なんべんまわった。



草鞋わらじ爪立つまだてるように、抜足ぬきあしをするように、

手拭てぬぐい遠慮えんりょをするように、まわった。



こわそうにもえた。



面白おもしろそうにもあった。



***



やがてじいさんはふえをぴたりとやめた。



そうして、かたけたはこくちけて、

手拭てぬぐいくびを、ちょいとつまんで、

ぽっとほうんだ。



***



「こうしておくと、はこなかへびになる。

 いませてやる。いませてやる」

いながら、

じいさんが真直まっすぐあるした。



やなぎしたけて、

ほそみち真直まっすぐりてった。



自分じぶんへびたいから、

ほそみちをどこまでもいてった。



じいさんは時々ときどきいまになる」とったり、

へびになる」とったりして

あるいてく。



しまいには、

 「いまになる、へびになる、

  きっとなる、ふえる、」

うたいながら、とうとうかわきした。



はしふねもないから、

ここでやすんではこなかへびせるだろう

おもっていると、

じいさんはざぶざぶかわなか這入はいした。



はじめはひざくらいのふかさであったが、

だんだんこしから、むねほうまでみずつかって

えなくなる。



それでもじいさんは

 「ふかくなる、よるになる、

  真直まっすぐになる」

うたいながら、

どこまでも真直まっすぐあるいてった。



そうしてひげかおあたま頭巾ずきん

まるでえなくなってしまった。



***



自分じぶん

じいさんが向岸むこうぎしがったときに、

へびせるだろうとおもって、

あしところって、

たった一人ひとりいつまでもっていた。



けれどもじいさんは、とうとうがってなかった。





Reading Japanese Literature in Japanese
This series is for the people/students who want to learn Japanese.