Friday, January 3, 2020

Soseki Natsume: Ten Nights of Dreams: The Eighth Night (Ruby)



夢十夜ゆめじゅうや



第八夜だいはちや



夏目なつめ漱石そうせき



床屋とこや敷居しきいまたいだら、

しろ着物きものてかたまっていた三四人さんよにんが、

一度いちどにいらっしゃいとった。



***



真中まんなかって見廻みまわすと、

四角しかく部屋へやである。



まど二方にほういて、

のこ二方にほうかがみかかっている。



かがみかず勘定かんじょうしたらむっつあった。



***



自分じぶん

そのひとつのまえこしをおろした。



すると御尻おしりがぶくりとった。



よほどすわ心地ごこちくできた椅子いすである。



かがみには自分じぶんかお立派りっぱうつった。



かおうしろにはまどえた。



それから帳場格子ちょうばごうしはすえた。



格子こうしなかにはひとがいなかった。



まどそととお

往来おうらいひとこしからうえがよくえた。



***



庄太郎しょうたろうおんなれてとおる。



庄太郎しょうたろう

いつのにかパナマの帽子ぼうしってかぶっている。



おんなもいつのこしらえたものやら。



ちょっとわからない。



双方そうほうとも得意とくいのようであった。



よくおんなかおよう

おもううちにとおぎてしまった。



***



豆腐屋とうふや喇叭らっぱいてとおった。



喇叭らっぱくちへあてがっているんで、

ほっぺたがはちされたようにふくれていた。



ふくれたまんまでとおしたものだから、

がかりでたまらない。



生涯しょうがいはちされているようにおもう。



***



芸者げいしゃた。



まだ御化粧おつくりをしていない。



島田しまだゆるんで、

なんだかあたましまりがない。



かおぼけている。



色沢いろつやどくなほどわるい。



それで御辞儀おじぎをして、どうもなんとかですとったが、

相手あいてはどうしてもかがみなかない。



***



するとしろ着物きものおおきなおとこが、

自分じぶんうしろへて、

はさみくしって

自分じぶんあたまながした。



自分じぶんうすひげひねって、

どうだろうものになるだろうかとたずねた。



しろおとこは、にもわずに、

った琥珀色こはくいろくし

かる自分じぶんあたまたたいた。



「さあ、あたまもだが、どうだろう、ものになるだろうか」

自分じぶんしろおとこいた。



しろおとこはやはりなにこたえずに、

ちゃきちゃきとはさみらしはじめた。



***



かがみうつかげひとのこらず

るつもりで見張みはっていたが、

はさみるたんびにくろ

んでるので、おそろしくなって、

やがてじた。



するとしろおとこが、こうった。

旦那だんなおもて金魚売きんぎょうりを  御覧ごらんなすったか」



自分じぶんないとった。



しろおとこはそれぎりで、

しきりとはさみらしていた。



すると突然とつぜんおおきなこえ

危険あぶねえったものがある。



はっとけると、

しろおとこそでした

自転車じてんしゃえた。



人力じんりき梶棒かじぼうえた。



おもうと、しろおとこ

両手りょうて自分じぶんあたまえて

うんとよこけた。



自転車じてんしゃ人力車じんりきしゃはまるでえなくなった。



はさみおとがちゃきちゃきする。



***



やがて、しろおとこ

自分じぶんよこまわって、

みみところはじめた。



まえほうばなくなったから、

安心あんしんしてけた。



粟餅あわもちや、もちやあ、もちや、

こえがすぐ、そこでする。



ちいさいきねをわざとうすへあてて、

拍子ひょうしってもちいている。



粟餅屋あわもちや子供こどもときたばかりだから、

ちょっと様子ようすたい。



けれども粟餅屋あわもちや

けっしてかがみなかない。



ただもちおとだけする。



***



自分じぶんはあるたけの視力しりょく

かがみかどのぞむようにしてた。



すると帳場格子ちょうばごうしのうちに、

いつのにか一人ひとりおんなすわっている。



いろ浅黒あさぐろ

眉毛まみえ大柄おおがらおんなで、

かみ銀杏返いちょうがえしにって、

黒繻子くろじゅす半襟はんえりのかかった素袷すあわせで、



立膝たてひざのまま、さつ勘定かんじょうをしている。



さつ十円札じゅうえんさつらしい。



おんなながまつげせて

うすくちびるむすんで

一生懸命いっしょうけんめいに、

さつかずんでいるが、

そのかたがいかにもはやい。



しかもさつかず

どこまでってもきる様子ようすがない。



ひざうえっているのは

たかだか百枚ひゃくまいぐらいだが、

その百枚ひゃくまいがいつまで勘定かんじょうしても

百枚ひゃくまいである。



***



自分じぶん茫然ぼうぜんとして

このおんなかお十円札じゅうえんさつつめていた。



するとみみもと

しろおとこおおきなこえ

あらいましょう」とった。



ちょうどうまいおりだから、

椅子いすからがるやいなや、

帳場格子ちょうばごうしほうをふりかえってた。



けれども格子こうしのうちには

おんなさつなんにもえなかった。



***



だいはらっておもてると、

門口かどぐち左側ひだりがわに、

小判こばんなりのおけいつつばかりならべてあって、

そのなかあか金魚きんぎょや、

斑入ふいり金魚きんぎょや、せた金魚きんぎょや、

ふとった金魚きんぎょがたくさんれてあった。



そうして金魚売きんぎょうりがそのうしろにいた。



金魚売きんぎょうり

自分じぶんまえならべた金魚きんぎょ

つめたまま、頬杖ほおづえいて、

じっとしている。



さわがしい往来おうらい活動かつどうには

ほとんどこころめていない。



自分じぶんはしばらくって

この金魚売きんぎょうりながめていた。



けれども自分じぶんながめているあいだ

金魚売きんぎょうりはちっともうごかなかった。





Reading Japanese Literature in Japanese
This series is for the people/students who want to learn Japanese.


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