2020年3月15日日曜日

Japanese Short Stories くも の 糸 The Spider's Thread: Ryunosuke Akutagawa





くも の いと The Spider's Thread



芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ Akutagawa Ryunosuke



(おしゃかさま):the Buddha

(カンダタ):Kandata、大泥棒おおどろぼう(a notorious thief)



いち One



ある  の こと です。

One day,


おしゃかさま は

極楽ごくらく の はすいけ の ふち を、

■おしゃかさま:Buddha ■極楽ごくらく:Paradise ■はすいけ:a lotus pond

ひとりで

ぶらぶら あるいて い ました。

■ぶらぶら あるく:stroll

the Buddha was strolling alone along the edge of a lotus pond in Paradise.


いけ の なか に いて いる

はす の はな は、

みんな たま の ように まっしろ で、

たま:jewel

The blooming lotus flowers in the pond were each pure white like jewels,

その まんなか に ある

金色きんいろ の ずい から は、

金色きんいろ:golden ■ずい:pistils and stamens

なんとも え ない い におい が、

たえまなく あたり へ あふれて い ます。

and the place was filled with the indescribably wondrous fragrance continually emitted from each flower's golden center.


極楽ごくらく は

丁度ちょうど あさ なのでしょう。

丁度ちょうど:just

It was just morning in Paradise.


***


やがて

おしゃかさま は

その いけ の ふち に たたずん

■たたずむ(=まる):pause

After a time, the Buddha paused at the edge of the pond

みず の おもて を おおって いる

はす の  の あいだ から、

■おもて(=表面ひょうめん):surface

and from between the lotus leaves that covered it

ふと

した の 様子ようす を 御覧ごらん に なり ました。

御覧ごらん に なる = る:see

saw a glimpse of the state of things below.


この 極楽ごくらく の はすいけ の した は、


丁度ちょうど 地獄じごく の そこ に

あたって おり ます から、

地獄じごく:Hell

Now this celestial pond just happened to lie directly over Hell,

水晶すいしよう の ような みず を

とおして、

水晶すいしよう:crystal

and peering through that crystal-clear water

三途さんずかわ や

はりやま の 景色けしき が、

三途さんずかわ:the River of Death ■はりやま:the Mountain of Needles

丁度ちょうど のぞき眼鏡めがね を る ように、

はっきりと える の です。

■のぞき眼鏡めがね:magnifying glass

was like looking through a magnifying glass at the River of Death and the Mountain of Needles and such.


***


すると

その 地獄じごく の そこ に、


カンダタ と う おとこ が 一人ひとり

ほか の 罪人ざいにん と いっしょ に

うごめいて いる 姿すがた が、

罪人ざいにん:sinner ■うごめく:writhe

まり ました。

 に まる = える:see

The Buddha saw there, in the depths of Hell, a single man writhing along with the other sinners.


この カンダタ とう おとこ は、


ひと を ころしたり いえ に  を つけたり、

いろいろ 悪事あくじ を はたらいた

大泥坊おおどろぼう です

悪事あくじ:acts of evil ■大泥坊おおどろぼう:notorious thief

This man was named Kandata, and he had been a notorious thief who had performed murder and arson and other acts of evil.


が、

それでも


たった ひとつ、い こと を

した おぼ が あり ます。

おぼえ が ある:remember

In his past, however, he had performed just one good deed:


と い ます のは、


ある とき

このおとこ が

ふかい はやし の なか を とおり ます と、

one day, when walking through the deep forest,

ちいさな くも が 一匹いっぴき

みちばた を て く のが

え ました。

■くも:spider ■う:crawl

he saw a spider crawling along the road.


そこで

カンダタ は


早速さっそく あし を げて、

み ころう と し ました が、

早速さっそく:at first ■ころす:kill

At first he raised his foot to crush it,

「いや、いや、


 これ も ちいさい ながら、

 いのち の ある もの に ちが ない

いのち:life ■ちがい ない:may

 その いのち を

 無暗むやみ とる


 とう こと は、

 いくら なんでも 可哀かわいそう だ。」

無暗むやみに:meaninglessly ■可哀かわいそう:pity

と、こう きゅうに おもかえて、

おもかえす:change his mind

とうとう

その くも を ころさ ず に

たすけて やった から です。

but suddenly he changed his mind and stopped, saying, "No, small though it may be, a spider, too, has life. It would be a pity to meaninglessly end it," and so did not kill it.


***


おしゃかさま は


地獄じごく の 様子ようす を

御覧ごらん に なり ながら、

Looking down upon the captives in Hell

この カンダタ には

くも を たすけた こと が ある の を

おもし ました。

the Buddha recalled this kind act that Kandata had performed,

そうして


それだけ の い こと を した むくい には、


出来でき なら

この おとこ を

地獄じごく から すく して やろう

出来できる なら:if possible ■すくう:save

と かんがえ ました。

and thought to use his good deed as a way to save him from his fate.


さいわそば を  ます と、

さいわい:fortunately

Looking aside,

ひすい の ような いろ を した

はす の  の うえ に、

■ひすい:jade

極楽ごくらく の くも が 一匹いっぴき

there on a jade-colored lotus leaf he saw a single spider,

うつくしい 銀色ぎんいろ の いと を

かけて い ます。

spinning out a web of silver thread.


おしゃかさま は


その くも の いと を

そっと  に って、

The Buddha carefully took the spider's thread into his hand,

たま の ような しらはす の あいだ から、

はる した に ある 地獄じごく の そこ へ、

はるか:far

まっすぐに それ を おろし ました。

and lowered it straight down between the jewel-like white lotuses into the depths of Hell.



 Two



こちら は

地獄じごく の そこ の  の いけ で、


ほか の 罪人ざいにん と いっしょ に、

いたり しずんだり して いた

カンダタ です。

Kandata was floating and sinking along with the other sinners in the Lake of Blood at the bottom of Hell.


なにしろ どちら を て も、

まっくらで、

It was pitch black no matter which way he looked,

たまに その くらやみ から

ぼんやり あがって いる もの が ある

と おもい ます と、

and the occasional glimpse of light that he would see in the darkness

それ は

おそろしい はり の やま の はり が

ひかる の です から、

would turn out to be just the glint of the terrible Mountain of Needles.

その 心細こころぼそさ と ったら あり ません。

How lonely he must have felt!


その うえ

あたり は はか の なか の ように

しんと しずまりかえって、

All about him was the silence of the grave,

たまに きこえる もの と って は、

ただ 罪人ざいにん が つく かすかな ためいき ばかり です。

■たまに:occasional

the only occasional sound being a faint sigh from one of the damned.


これ は


ここ へ ちて る ほど の 人間にんげん は、

もう さまざまな 地獄じごく の 責苦せめく に

つかれはてて、

責苦せめく:torments

Those who were so evil as to be sent to this place were tired by its various torments,

泣声なきごえ を す ちから さえ

なくなって いる の でしょう。

and left without even the strength to cry out.


ですから

さすが 大泥坊おおどろぼう の カンダタ も、


やはり

 の いけ の  に むせび ながら、

■むせぶ(=むせる):choke

まるで に かかった かわず の ように、

ただ もがいて ばかり い ました。

かわず(=カエル):frog

Even the great thief Kandata could only squirm like a dying frog as he choked in the Lake of Blood.


***


ところが

ある とき の こと です。

But one day,


何気なにげなく カンダタ が あたま を げて、

何気なにげなく:casually

raising up his head

 の いけ の そら を

ながめ ます と、

and glancing at the sky above the lake,

その ひっそりと した やみ の なか を、

in the empty darkness

とおい とおい 天上てんじょう から、


銀色ぎんいろ の くも の いと が、

れて の です。

れてる:lower, come down

Kandata saw a silver spider's thread being lowered from the ceiling so far, far away.


まるで

人目ひとめ に かかる の を おそれる ように、

The thread seemed almost afraid to be seen,

ひとすじ

ほそく ひかり ながら、


するする と 自分じぶん の うえ へ

れて る では あり ません か。

emitting a frail, constant light as it came down to just above Kandata's head.


カンダタ は

これ を る と、


おもわず

 を って よろこび ました。

Seeing this, Kandata couldn't help but clap his hands in joy.


この いと に すがりついて、

どこまでも のぼって けば、

■すがりつく:cling

If he were to cling to this thread and climb up it,

きっと 地獄じごく から ぬけせる のに

ちがい あり ません。

he may be able to climb out of Hell!


いや、

うまく く と、


極楽ごくらく へ はいる こと さえ も

出来できる でしょう。

Perhaps he could even climb all the way to Paradise!


そうすれば、


もう はり の やま へ

げられる こと も なくなれば、

Then he would never be chased up the Mountain of Needles,

 の いけ に

しずめられる こと も あり ません。

nor drowned in the Lake of Blood again.


***


こう おもい ました から

Thinking so,

カンダタ は、

早速さっそく


その くも の いと を

両手りょうて で しっかり と つかみ ながら、

■つかむ:grasp

he firmly grasped the spider's thread with both hands

一生懸命いっしょうけんめい

一生懸命いっしょうけんめい:try hard

うえ へ うえ へ と

たぐり のぼり はじめ ました。

and began to climb the thread, higher and higher.


もとより 大泥坊おおどろぼう の こと です から、

Having once been a great thief,

こうう こと には

むかし から、

って いる の です。

he was used to tasks such as this.


***


しかし


地獄じごく と 極楽ごくらく との あいだ は、

何万里なんまんり と なく あり ます から、

But the distance between Hell and Paradise is tens of thousands of miles,

いくら あせて みた ところで、

あせる:hurry

容易ようい

うえ へは られ ません。

容易ようい:easy

and so it would seem that no amount of effort would make this an easy journey.


やや しばらく のぼる うち に、

とうとう カンダタ も くたびれて、

■くたびれる = つかれる:tired

After climbing for some time Kandata tired,

もう ひと たぐり も

うえ の ほう へ は

のぼれ なく なって しまい ました。

■たぐる:pull in, draw in

and couldn't climb a bit higher.


そこで

仕方しかた が あり ません から、

Having no other recourse,

まず

一休ひとやすみ やすむ つもり で、


いと の 中途ちゅうと に

ぶらがり ながら、

he hung there from the thread, resting,

はるかに  の した を

見下みおろし ました。

and while doing so looked down below.


***


すると、

一生懸命いっしょうけんめいに のぼった 甲斐かい が あって、

He saw that he had made a good deal of progress.

さっき まで 自分じぶん が いた

 の いけ は、

The Lake of Blood that he had been trapped in

いま では

もう やみ の そこ に


いつのにか

かくれて おり ます。

was now hidden in the dark below,


それから


あの ぼんやり ひかって いる

おそろしい はり の やま も、


あし の した に なって しまい ました。

and he had even climbed higher than the dimly glowing Mountain of Needles.


この ぶん で のぼって け ば、

If he could keep up this pace,

地獄じごく から ぬけす のも、

存外ぞんがい

わけ が ない かもしれません。

存外ぞんがい:more than he thought ■わけ が ない(= 簡単かんたん):easy

perhaps he could escape from Hell after all.


カンダタ は

両手りょうて を くも の いと に からませ ながら、

■からませる:twist

Kandata grasped the thread with both hands,

ここ へ て から 何年なんねん にも

した こと の ない こえ で、


「しめた。しめた。」

と わらい ました。

and laughingly spoke in a voice that he hadn't used in the many years since he had come here, "I've done it! I've done it!"


ところが

ふと がつき ます と、


くも の いと の した の ほう には、

Looking down, however,

数限かずかぎり も ない 罪人ざいにん たち が、

自分じぶん の のぼった あと を つけて、

数限かずかぎりない:unlimited, many

まるで

あり の 行列ぎょうれつ の ように、

あり:ant ■行列ぎょうれつ:line

やはり うえ へ うえ へ

一心いっしん

一心いっしんに:try hard

よじのぼって る では あり ません か。

■よじのぼる(のぼる):climb

what did he see but an endless queue of sinners, intently following him up the thread like a line of ants!


カンダタ は

これ を る と、

Seeing this,

おどろいた のと おそろしい のと で、


しばらく は ただ、

馬鹿ばか の ように

おおきな くち を けた まま、

馬鹿ばか:fool

 ばかり

うごかして い ました。

surprise and fear kept Kandata hanging there for a time with mouth open and eyes blinking like a fool.


自分じぶん 一人ひとり で さえ れ そうな、

この ほそい くも の いと が、


どうして

あれだけ の 人数にんずう の おもさ に

える こと が 出来できる でしょう。

える:withstand

How could this slender spider's web, which should break even under just his weight, support the weight of all these other people?


もし 万一まんいち

途中とちゅう で れた と し ましたら、

If the thread were to snap,

せっかく ここ へ まで のぼって 

この 肝心かんじん 自分じぶん まで も、

肝心かんじんな:essential, important

もとの 地獄じごく へ

逆落さかおと に

ちて しまわ なければなりません。

逆落さかおとし(=さかさま):upside down

all of his effort would be wasted and he would fall back into Hell with the others!


そんな こと が あったら、

大変たいへん です。

That just would not do.


が、

そう う うち にも、

罪人ざいにん たち は

But even as he thought these thoughts,

何百なんびゃく と なく 何千なんぜん と なく、

まっくらな  の いけ の そこ から、


うようよと あがって、

hundreds more, thousands more of the damned came crawling up from the Lake of Blood,

ほそく ひかって いる くも の いと を、

一列いちれつ に なり ながら、


せっせと のぼって  ます。

forming a line and scurrying up the thread.


いまうち

どうか し なければ、

If he didn't do something fast,

いと は

まんなか から ふたつ に れて、


ちて しまう に ちがい あり ません。

surely the thread would snap in the middle and he would fall back down.


***


そこで カンダタ は


おおきな こえ を して、

わめ ました。

わめく:shout

Kandata shouted out,

「こら、罪人ざいにん ども。

"Hey! You sinners!


 この くも の いと は

 おれ の もの だぞ。

This thread is mine!


 おまえたち は

 一体いったい だれ に て、

 のぼって た。

く:get permission

Who said you could climb up it?


 りろ。りろ。」

Get off! Get off!"


***


その 途端とたん です。

途端とたん:at that moment

いままで なんとも なかった くも の いと が、


きゅう

カンダタ の ぶらがって いる ところ から、

ぷつりと おと を てて

れ ました。

Though the thread had been fine until just then, with these words it snapped with a twang right where Kandata held it.


ですから

カンダタ も たまり ません。

Poor Kandata


あっと う  も なく


かぜ を って

独楽こま の ように くるくる まわり ながら、

る:through … ■独楽こま:top

 うち に

やみ の そこ へ、

まっさかさま に ちて しまい ました。

る:fast, quick

fell headfirst through the air, spinning like a top, right down through the darkness.


***


あと には


ただ 極楽ごくらく の くも の いと が、

きらきらと ほそく ひかり ながら、


つき も ほし も ない そら の 中途ちゅうと に、

みじかく れて いる ばかり です。

The severed end of the silver thread hung there, suspended from heaven, shining with its pale light in that moonless, starless sky.



さん Three



おしゃかさま は


極楽ごくらく の はすいけ の ふち に

って、

The Buddha stood in Paradise at the edge of the lotus pond,

この 一部いちぶ始終しじゅう を

一部いちぶ始終しじゅう:all, detail

じっと

て いらっしゃい ました が、

■いらっしゃる = いる

silently watching these events.

やがて

カンダタ が


 の いけ の そこ へ

いし の ように しずんで しまい ます と、

After Kandata sank like a stone to the bottom of the Lake of Blood,

かなしそうな かお を なさり ながら、

また ぶらぶら あるき はじめ ました。

■なさる = する

he continued his stroll with a sad face.


自分じぶん ばかり

地獄じごく から ぬけそう と する、

カンダタ の 無慈悲むじひ な こころ が、

無慈悲むじひ:merciless, heartless

そうして

その こころ 相当そうとうな ばつ を うけて、

もと の 地獄じごく へ ちて しまった のが、

ばつ:punishment

おしゃかさま の  から る と、

あさましく おもわれた の でしょう。

■あさましい:sad, regrettable, deplorable

He must have been surprised that even after such severe punishment Kandata's lack of compassion would lead him right back into Hell.


***


しかし

極楽ごくらく の はすいけ の はす は、


すこしも

そんな こと は

 に し ません。

Yet the lotus blossoms in the lotus ponds of Paradise care nothing about such matters.


その たま の ような しろい はな は、


おしゃかさま の あし の まわり に、

ゆらゆら

うてな を うごかして、

■うてな(がく):calyx

Their jewel-like white flowers waved about the feet of the Buddha,

その まんなか に ある 金色きんいろ の ずい から は、


なんとも え ない い におい が、

たえまなく

あたり へ あふれて い ます。

and each flower's golden center continuously filled the place with their indescribably wondrous fragrance.


極楽ごくらく も もう

ひる に ちかく なった の でしょう。

It was almost noon in Paradise.





Reading Japanese Literature in Japanese
This series is for the people/students who want to learn Japanese.




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