Thursday, January 2, 2020

Soseki Natsume: Ten Nights of Dreams: The Seventh Night (Ruby)



夢十夜ゆめじゅうや



第七夜だいななや



夏目なつめ漱石そうせき



なんでもおおきなふねっている。



***



このふね毎日まいにち毎夜まいよ

すこしの絶間たえまなくくろけぶりいて

なみってすすんでく。



すさまじいおとである。



けれどもどこへくんだかわからない。



ただなみそこから

焼火箸やけひばしのような太陽たいようる。



それがたか帆柱ほばしら真上まうえまで

しばらくかかっているかとおもうと、

いつのにかおおきなふねして、

さきってしまう。



そうして、しまいには焼火箸やけひばしのようにじゅっといって

またなみそこしずんでく。



そのたんびにあおなみとおくのむこうで、

蘇枋すおういろかえる。



するとふねすさまじいおとてて

そのあとおっかけてく。



けれどもけっしておいつかない。



***



あるとき自分じぶんは、ふねおとこつらまえて

いてた。



「このふね西にしくんですか」



ふねおとこ怪訝けげんかおをして、

しばらく自分じぶんていたが、やがて、

「なぜ」とかえした。



ちておっかけるようだから」



ふねおとこはからからとわらった。



そうしてむこうのほうってしまった。



***



西にしの、はてひがしか。

 それは本真ほんまか。



 ひがしいずの、御里おさと西にしか。

 それも本真ほんまか。



 なみうえ

 梶枕かじまくら

 ながながせ」

はやしている。



へさきってたら、

水夫すいふ大勢おおぜいって、

ふと帆綱ほづな手繰たぐっていた。



***



自分じぶん大変たいへん心細こころぼそくなった。



いつおかがれることわからない。



そうしてどこへくのだかれない。



ただくろけぶりいて

なみってことだけはたしかである。



そのなみはすこぶるひろいものであった。



際限さいげんもなくあおえる。



ときにはむらさきにもなった。



ただふねうご周囲まわりだけは

いつでも真白まっしろあわいていた。



自分じぶん大変たいへん心細こころぼそかった。



こんなふねにいるより

いっそげてんでしまおうかとおもった。



***



乗合のりあいはたくさんいた。



たいていは異人いじんのようであった。



しかしいろいろなかおをしていた。



そらくもってふねれたとき

一人ひとりおんなてすりりかかって、

しきりにいていた。



手巾ハンケチいろしろえた。



しかし身体からだには

更紗さらさのような洋服ようふくていた。



このおんなときに、

かなしいのは自分じぶんばかりではないのだとがついた。



***



あるばん甲板かんぱんうえて、

一人ひとりほしながめていたら、

一人ひとり異人いじんて、

天文学てんもんがくってるかとたずねた。



自分じぶんはつまらないからのうとさえおもっている。



天文学てんもんがくなどを必要ひつようがない。



だまっていた。



するとその異人いじん

金牛宮きんぎゅうきゅういただきにある七星しちせいはなし

してかせた。



そうしてほしうみもみんなかみつくったものだ

った。



最後さいご自分じぶん

かみ信仰しんこうするかとたずねた。



自分じぶんそらだまっていた。



***



あるときサローンに這入はいったら

派手はで衣裳いしょうわかおんな

むこうむきになって、洋琴ピアノいていた。



そのそば

たか立派りっぱおとこって、

唱歌しょうかうたっている。



そのくち大変たいへんおおきくえた。



けれども二人ふたり

二人ふたり以外いがいことには

まるで頓着とんじゃくしていない様子ようすであった。



ふねっていることさえわすれているようであった。



***



自分じぶんはますますつまらなくなった。



とうとうこと決心けっしんした。



それであるばん、あたりにひとのいない時分じぶん

おもってうみなかんだ。



ところが――自分じぶんあし甲板かんぱんはなれて、

ふねえんれたその刹那せつなに、

きゅういのちしくなった。



こころそこからよせばよかったとおもった。



けれども、もうおそい。



自分じぶんいやでもおうでも

うみなか這入はいらなければならない。



ただ大変たいへんたかくできていたふねえて、

身体しんたいふねはなれたけれども、

あし容易よういみずかない。



しかしつかまえるものがないから、

しだいしだいにみずちかづいてる。



いくらあしちぢめてもちかづいてる。



みずいろくろかった。



***



そのうちふね

れいとおくろけぶりいて、

とおぎてしまった。



自分じぶんはどこへくんだかわからないふねでも、

やっぱりっているほうがよかったと

はじめてさとりながら、

しかもそのさとりを利用りようすることができずに、

無限むげん後悔こうかい恐怖きょうふとをいだいて

くろなみほうしずかにちてった。





Reading Japanese Literature in Japanese
This series is for the people/students who want to learn Japanese.