Thursday, January 9, 2020

Ryunosuke Akutagawa: The Spider's Thread (2)(Ruby, Grammatical Analysis)



蜘蛛くもいと



芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ







こちら は 地獄じごく の そこ の  の いけ で、

ほか の 罪人ざいにん と いっしょ に、

いたり しずんだり して いた カンダタ で ござい ます。



なにしろ どちら を て も、まっくらで、



たまに その くらやみ から

ぼんやり あがって いる もの が ある

と おもい ます と、



それ は

おそろしい はり の やま の はり が

ひかる ので ござい ます から、

その 心細こころぼそさ と ったら ござい ません。



その うえ

あたり は はか の なか の ように

しんと しずまりかえって、



たまに きこえる もの と って は、

ただ 罪人ざいにん が つく かすかな ためいき ばかり で ござい ます。



これ は

ここ へ ちて る ほど の 人間にんげん は、

もう さまざまな 地獄じごく の 責苦せめく に つかれはてて、

泣声なきごえ を す ちから さえ

なくなって いる ので ござい ましょう。



ですから

さすが 大泥坊おおどろぼう の カンダタ も、

やはり  の いけ の  に むせび ながら、

まるで に かかった かわず の ように、

ただ もがいて ばかり おり ました。



***



ところが ある とき の こと で ござい ます。



何気なにげなく

カンダタ が あたま を げて、

 の いけ の そら を

ながめ ます と、



その ひっそりと した やみ の なか を、

とおい とおい 天上てんじょう から、

銀色ぎんいろ の 蜘蛛くも の いと が、



まるで 人目ひとめ に かかる の を おそれる ように、

ひとすじ ほそく ひかり ながら、

するすると 自分じぶん の うえ へ

れて まいる の では ござい ません か。



カンダタ は これ を る と、

おもわず  を って よろこび ました。



この いと に すがりついて、

どこまでも のぼって けば、

きっと 地獄じごく から ぬけせる のに

相違そうい ござい ません。



いや、うまく く と、

極楽ごくらく へ はいる こと さえ も

出来でき ましょう。



そうすれば、

もう はり の やま へ

げられる こと も なくなれば、

 の いけ に

しずめられる こと も ある はず は ござい ません。



***



こう おもい ました から

カンダタ は、早速さっそく その 蜘蛛くも の いと を

両手りょうて で しっかり と つかみ ながら、

一生懸命いっしょうけんめい

うえ へ うえ へ と たぐり のぼり はじめ ました。



もとより 大泥坊おおどろぼう の こと で ござい ます から、

こうう こと には

むかし から、って いる ので ござい ます。



***



しかし

地獄じごく と 極楽ごくらく との あいだ は、

何万里なんまんり と なく ござい ます から、

いくら あせってた ところで、

容易よういに うえ へは られ ません。



やや しばらく のぼる うち に、



とうとう カンダタ も くたびれて、



もう ひと たぐり も

うえ の ほう へ は のぼれ なく なって しまい ました。



そこで 仕方しかた が ござい ません から、

まず 一休ひとやすみ やすむ つもり で、

いと の 中途ちゅうと に ぶらさがり ながら、

はるかに  の した を 見下みおろし ました。



***



すると、一生懸命いっしょうけんめいに のぼった 甲斐かい が あって、

さっき まで 自分じぶん が いた  の いけ は、

いま では

もう やみ の そこ に

いつのにか かくれて おり ます。



それから

あの ぼんやり ひかって いる おそろしい はり の やま も、

あし の した に なって しまい ました。



この ぶん で のぼって け ば、

地獄じごく から ぬけす のも、

存外ぞんがい わけ が ない かもしれません。



カンダタ は

両手りょうて を 蜘蛛くも の いと に からみ ながら、

ここ へ て から 何年なんねん にも した こと の ない こえ で、

「しめた。しめた。」

と わらい ました。



ところが

ふと がつき ます と、



蜘蛛くも の いと の した の ほう には、

数限かずかぎり も ない 罪人ざいにん たち が、



自分じぶん の のぼった あと を つけて、

まるで あり の 行列ぎょうれつ の ように、

やはり うえ へ うえ へ

一心いっしん に よじのぼって る では ござい ません か。



カンダタ は これ を る と、

おどろいた のと おそろしい のと で、

しばらく は ただ、

莫迦ばか の ように おおきな くち を いた まま、

 ばかり うごかして おり ました。



自分じぶん 一人ひとり で さえ れ そうな、

この ほそい 蜘蛛くも の いと が、

どうして あれだけ の 人数にんずう の おもみ に

える こと が 出来でき ましょう。



もし 万一まんいち

途中とちゅう で れた と いたし ましたら、



せっかく ここ へ まで のぼって 

この 肝心かんじんな 自分じぶん まで も、

もとの 地獄じごく へ

逆落さかおとし に ちて しまわ なければなりません。



そんな こと が あったら、大変たいへん で ござい ます。



が、そう う うち にも、

罪人ざいにん たち は



何百なんびゃく と なく 何千なんぜん と なく、

まっくらな  の いけ の そこ から、

うようよと あがって、



ほそく ひかって いる 蜘蛛くも の いと を、

一列いちれつ に なり ながら、

せっせと のぼって まいり ます。



いまうちに どうか し なければ、

いと は

まんなか から ふたつ に れて、

ちて しまう のに ちがい あり ません。



***



そこで カンダタ は おおきな こえ を して、

「こら、罪人ざいにん ども。

 この 蜘蛛くも の いと は

 おれ の もの だぞ。



 おまえたち は

 一体いったい だれ に いて、のぼって た。

 りろ。りろ。」

と わめき ました。



***



その 途端とたん で ござい ます。



いままで なんとも なかった 蜘蛛くも の いと が、

きゅう

カンダタ の ぶらさがって いる ところ から、

ぷつりと おと を てて れ ました。



ですから カンダタ も たまり ません。



あっと う  も なく

かぜ を って、

独楽こま の ように くるくる まわり ながら、

る うち に

やみ の そこ へ、

まっさかさま に ちて しまい ました。



***



あと には

ただ 極楽ごくらく の 蜘蛛くも の いと が、

きらきらと ほそく ひかり ながら、



つき も ほし も ない そら の 中途ちゅうと に、

みじかく れて いる ばかり で ござい ます。





Reading Japanese Literature in Japanese
This series is for the people/students who want to learn Japanese.