Japanese Ghost Stories 破られた約束 Of a Promise Broken

やぶられた 約束やくそく

Of a Promise Broken

Lafcadio Hearn (Koizumi Yakumo)


わたし は

 ぬ の は こわく あり ません』

"I AM not afraid to die."

に かけて いる つま が

い ました。

said the dying wife;

『ただ ひと

  に なる こと が あり ます。

"there is only one thing that troubles me now.

 わたし の かわり に

 この うち へ だれ が る の か

 それ が り たい の です』

I wish that I could know who will take my place in this house."

かなしんで いる おっと は

こたえ ました。

だれ も

 おまえ の かわり は  ない。

"My dear one," answered the sorrowing husband, "nobody shall ever take your place in my home.

 もう けっして、けっして 再婚さいこん は し ない』

I will never, never marry again."

その とき

かれ は

こころ から そう おもって

はなして い ました。

At the time that he said this he was speaking out of his heart;

いま うしない かけて いる おんな を

あいして いた から です。

for he loved the woman whom he was about to lose.

武士ぶし の ちかい に かけて?』

"On the faith of a samurai?"

かすかに ほほみ ながら

彼女かのじょ は

たずね ました。

she questioned, with a feeble smile.

武士ぶし の ちかい に かけて』

"On the faith of a samurai,"

かれ は

彼女かのじょ の 青白あおじろい やせた かお を

で ながら

こたえ ました。

he responded, stroking the pale thin face.

『それなら、あなた ……』

彼女かのじょ は

い ました。

"Then, my dear one," she said,

わたし を

 にわ に めて ください ね?

"you will let me be buried in the garden, will you not?

 あの むこう の すみ の

 私逹わたしたち が えた あの うめ の  の

 ちかく に。

near those plum-trees that we planted at the further end?


 ずっとまえ から

 この こと を たのみ たかった の です。

I wanted long ago to ask this;


 もし あなた が 再婚さいこん する の なら

 そんな ちかい ところ に はか が ある の は

 いや だろう

 と おもった の です。

but 1 thought, that if you were to marry again, you would not like to have my grave so near you.


 再婚さいこん し ない と

 あなた が 約束やくそく して くれた から

Now you have promised that no other woman shall take my place;

 わたし は

 遠慮えんりょし ないで

 おねがい を し ます。

so I need not hesitate to speak of my wish. ...

 わたし を にわ に めて しい。

I want so much to be buried in the garden.

 そう すれ ば

 時々ときどき あなた の こえ が ける でしょう。

I think that in the garden I should sometimes hear your voice,


 はる に なったら

 はな が られる でしょう』

and that I should still be able to see the flowers in the spring."

『おまえ が のぞむ ように しよう』

"It shall be as you wish,"

かれ は こたえ ました。

he answered.


 いま は

 そんな んで から の はなし は


"But do not now speak of burial:

 もう 希望きぼう が ない という ほど

 ひどい わけ じゃ ない の だから』

you are not so ill that we have lost all hope."

駄目だめ なの』

"I have,"

彼女かのじょ は

こたえ ました。

she returned;

今朝けさ の うち に

 に ます。

"I shall die this morning. . . .


 にわ に めて くれ ます ね』

But you will bury me in the garden? "



かれ は い ました。

he said, --"

私達わたしたち が えた

 うめ の  の かげ に ……

under the shade of the plum-trees that we planted;


 そこ に 立派りっぱな はか を つくろう』

--and you shall have a beautiful tomb there."


 ちいさな すず を ひと


"And will you give me a little bell?"


"Bell --?"


 ひつぎ の なか へ

 ちいさな すず を

 れて ください。

"Yes: I want you to put a little bell in the coffin,


 お遍路へんろさま の って いる ような

 ちいさな すず ……

--such a little bell as the Buddhist pilgrims carry.

■お遍路へんろ:Buddhist pilgrims

 そんな すず を ください』

Shall I have it? "

ちいさな すず を あげよう。

"You shall have the little bell,

 なにか ほか

 しい もの は?』

--and anything else that you wish,"

ほかには なにも あり ません』

"I do not wish for anything else,"

彼女かのじょ は い ました。

she said.

『あなた ……

. . "My dear one,

 あなた は

 いつも わたしに とても やさしく して くれ ました。

you have been very good to me always.


 しあわせ に ね ます』

Now I can die happy."


つま は  を じて

に ました。

Then she closed her eyes and died--

それ は


つかれた 子供こども が ねむる ように

やすらか でした。

as easily as a tired child falls asleep.

んだ 彼女かのじょ は


She looked beautiful when she was dead;

かお には

ほほみ が かんで い ました。

and there was a smile upon her face.


彼女かのじょ は

にわ の、

きだった  の かげ に

められ ました。

She was buried in the garden, under the shade of the trees that she loved;

ちいさな すず も 一緒いっしょ に

められ ました。

and a small bell was buried with her.

はか の うえ には

家紋かもん と 戒名かいみょう の られた

立派りっぱな 石碑せきひ が

てられ ました。

Above the grave was erected a handsome monument, decorated with the family crest, and bearing the kaimyo:

家紋かもん:family crest ■戒名かいみょう:a posthumous Buddhist name

戒名かいみょう は

慈海じかいいん梅花ばいか明影みょうえい大姉だいし』 と られて い ました。

--"Great Elder Sister, Luminous-Shadow-of-the-Plum-Flower-Chamber, dwelling in the Mansion of the Great Sea of Compassions"


つま が んで

一年いちねん も たた ない うち に

But, within a twelve-month after the death of his wife,

さむらい の 親戚しんせき や 友人ゆうじん は、

かれ に

再婚さいこん を すすめ はじめ ました。

the relatives and friends of the samurai began to insist that he should marry again.

『おまえ は まだ わかい』

"You are still a young man,"

彼等かれら は い ました。

they said,

『それに 一人ひとり 息子むすこ だ、

"and an only son;

 子供こども も い ない。

and you have no children.

 さむらい には

 結婚けっこん する 義務ぎむ が ある。

It is the duty of a samurai to marry.

 子供こども が い ない まま んで しまったら

 だれ が

 先祖せんぞ を まつったり、

 そなもの を あげたり する のだ?』

If you die childless, who will there be to make the offerings and to remember the ancestors? "



そんな こと を たくさん われ

かれ は とうとう

再婚さいこん を 説得せっとく された の です。

By many such representations he was at last persuaded to marry again.

花嫁はなよめ は

わずか 十八じゅうはち でした。

The bride was only seventeen years old;


にわ の はか の

無言むごん の 非難ひなん にも かかわらず、

彼女かのじょ を

こころ から あいする ように なって き ました。

and he found that he could love her dearly, notwithstanding the dumb reproach of the tomb in the garden.



再婚さいこん して 七日目なのかめ まで は、

わかい つま の 幸福こうふく を

さまたげる ような こと は

なにも き ません でした。

Nothing took place to disturb the happiness of the young wife until the seventh day after the wedding,

七日目なのかめ に

おっと は


しろ に い なけれならない 仕事しごと を

めいじられ ました。

--when her husband was ordered to undertake certain duties requiring his presence at the castle by night.

それ は

つま を

いえ に 一人ひとり のこして か なければならない

はじめて の よる でした。

On the first evening that he was obliged to leave her alone,

つま は

なにか 説明せつめい でき ない 不安ふあん を

かんじ ました。

she felt uneasy in a way that she could not explain,

理由りゆう は わからない の です が、

ばくぜんと こわかった の です。

--vaguely afraid without knowing why.

とこ に ついても

ねむれ ません でした。

When she went to bed she could not sleep.


あたり の 空気くうき が

みょうに 重苦おもくるしかった の です。

There was a strange oppression in the air,

それ は

あらし の まえ に 時々ときどき おとずれる ような

言葉ことば に でき ない

重苦おもくるしさ でした。

--an indefinable heaviness like that which sometimes precedes the coming of a storm.


うしこく に、

彼女かのじょ は

そと の 暗闇くらやみ の なか で

すず が る の を

き ました。

About the Hour of the Ox she heard, outside in the night, the clanging of a bell,

うしこく:2 a.m.

それ は

遍路へんろ の すず でした。

--a Buddhist pilgrim's bell;

どんな お遍路へんろ が

こんな 時間じかん に

さむらい の 屋敷やしき の あたり を

とおる の だろう か

と 彼女かのじょ は 不思議ふしぎに おもい ました。

--and she wondered what pilgrim could be passing through the samurai quarter at such a time.



しばらく しずか に なり


すず は もっと ちかくで ひびき ました。

Presently, after a pause, the bell sounded much nearer.


遍路へんろ は

その いえ に ちかづいてる の です。

Evidently the pilgrim was approaching the house;



みち の ない、いえ の うら から

ちかづいてる の でしょうか?

--but why approaching from the rear, where no road was?


いぬ が

奇妙きみょうに そして なにか を おそれる ように

あわれな ごえ を あげ、

そして、はじめた の です。

. . . Suddenly the dogs began to whine and howl in an unusual and horrible way;


悪夢あくむ の ような 恐怖きょうふ が

彼女かのじょ に おそいかかり ました。

--and a fear came upon her like the fear of dreams.

すず は


にわ の なか で って いた の です。

. . . That ringing was certainly in the garden.

彼女かのじょ は


女中じゅちゅう を こし に

こう と し ました。

. . . She tried to get up to waken a servant.


きる こと が

でき ない の でした。

うごく こと も

こえ を あげる こと も

でき ない の です。

But she found that she could not rise, --could not move, --could not call.

すず の おと は

ちかづいて  ます。



ちかづいて  ました。

. . . And nearer, and still more near, came the clang of the bell;


いぬ の

なんう かた ……

--and oh! how the dogs howled!


かげ が しのむ ように

一人ひとり の おんな が

部屋へや へ すっと はいってた の です。

. . . Then, lightly as a shadow steals, there glided into the room a Woman,

 は すべ

しっかり められて い ました。

--though every door stood fast,

どの ふすま も

うごき ません でした。

and every screen unmoved,

■ふすま:sliding screen


きょうかたびら を 

遍路へんろ の すず を った おんな が

はいってた の です。

--a Woman robed in a grave-robe, and carrying a pilgrim's bell.


んで から かなり たって いる のか

はいってた おんな には

 が あり ません でした。

Eyeless she came, --because she had long been dead;

ほどけた かみ が

かお の まわり に

がって い ました。

--and her loosened hair streamed down about her face;

おんな は

みだれた かみ の あいだ から

くなった  で つめ、

くなった した で しゃべり ました。

--and she looked without eyes through the tangle of it, and spoke without a tongue:


『この いえ に いて は ならない。

--" Not in this house,

 おまえ は

 このいえ に いて は ならない。

--not in this house shall you stay!

 ここでは まだ

 わたし が おんな主人しゅじん だ。

Here I am mistress still.


 おまえ は け。

You shall go;


 く 理由りゆう を

 だれにも って は ならない。

and you shall tell to none the reason of your going.


 あのひと に ったら、

 おまえ を き に する』

If you tell HIM I will tear you into pieces! "


そう い ながら

幽霊ゆうれい は

姿すがた を し ました。

So speaking, the haunter vanished.


花嫁はなよめ は

恐怖きょうふ の あまり

 を うしなって しまい ました。

The bride became senseless with fear.

あけがた まで

彼女かのじょ は

うしなった まま でした。

Until the dawn she so remained.



あかるい ひかり を る と

彼女かのじょ は

自分じぶん が たり いたり した もの が

現実げんじつ だった のか

うたがい ました。

Nevertheless, in the cheery light of day, she doubted the reality of what she had seen and heard.

だれにも って は ならない

と 警告けいこく された 記憶きおく が

彼女かのじょ に おもく のしかかり

The memory of the warning still weighed upon her so heavily that

彼女かのじょ は

おっと にも だれ にも、

その 幽靈ゆうれい の こと を

はなそう と し ません でした。

she did not dare to speak of the vision, either to her husband or to any one else;

彼女かのじょ は

ただ おそろしい ゆめ を 

病気びょうき に なった だけ だ

と 自分じぶん を ほとんど 納得なっとく させる こと が

できた の です。

but she was almost able to persuade herself that she had only dreamed an ugly dream, which had made her ill.



つぎ の  の ばん には


うたがう こと は でき ません でした。

On the following night, however, she could not doubt.

また うしこく に

いぬ が また

え、あわれな ごえ を あげ はじめ ました。

Again, at the Hour of the Ox, the dogs began to howl and whine;


すず が り ました。

--again the bell resounded,

それ は

にわ から ゆっくり と ちかづいて  ました。

--approaching slowly from the garden;


それ を いて いた 彼女かのじょ は


こえ を そう と し ました が

駄目だめ でした。

--again the listener vainly strove to rise and call;


んだ おんな が

部屋へや に はいって

小声こごえで さけび ました。

--again the dead came into the room, and hissed,

『おまえ は け。

--" You shall go;

 その 理由りゆう を

 だれ にも って は ならない。

and you shall tell to no one why you must go!


 あのひと に こっそり ったら

 おまえ を き に する。』

If you even whisper it to HIM, I will tear you in pieces! " . . .


幽靈ゆうれい は

寝床ねどこ の ちかく まで  ました。

This time the haunter came close to the couch,



かお を しかめ ました。

--and bent and muttered and mowed above it. .



さむらい が しろ から かえる と

Next morning, when the samurai returned from the castle,

かれ の わかい つま は

かれ の まえ に ひれして

ねがい を し ました。

his young wife prostrated herself before him in supplication:

『おねがい です』

--" 1 beseech you,"

彼女かのじょ は い ました。

she said,

『こんな こと を う の は

 恩知おんしらず で 失礼しつれい なの です が

 ゆるして ください。

"to pardon my ingratitude and my great rudeness in thus addressing you:

 実家じっか へ かえり たい の です。

but I want to go home;

 いま すぐ かえり たい の です』

--I want to go away at once."

『ここ に なに

 いやな こと でも ある の か?』

"Are you not happy here?"

かれ は

本当ほんとうに おどろいて たずね ました。

he asked, in sincere surprise.

わたし が 留守るす の あいだ に

 だれか なに

 意地悪いじわるな こと でも した の か?』

"Has any one dared to be unkind to you during my absence?"

『そんな こと では あり ません』

"It is not that --"

彼女かのじょ は

き ながら

こたえ ました。

she answered, sobbing.

『ここでは だれも が

 わたし に 大変たいへん 親切しんせつ に して くれ ます。

"Everybody here has been only too good to me.


 わたし は

 このまま あなた の つま で いる こと は

 でき ません。

. . . But I cannot continue to be your wife;

 わたし は

 か なければなりません。』

--I must go away. . . ."

かれ は

非常ひじょうに おどろいて

さけび ました。

『この いえ で なにか いやな こと が

 あった という のは

 とても つらい こと だ。

"My dear," he exclaimed, in great astonishment, "it is very painful to know that you have had any cause for unhappiness in this house.

 わたし には

 おまえ が き たい という 理由りゆう が


But I cannot even imagine why you should want to go away


 おまえ に ひどい こと を して い ない のに

 く という のは ……。

--unless somebody has been very unkind to you


 わかれて くれ

 と う つもり では ない だろう?』

--Surely you do not mean that you wish for a divorce?"

彼女かのじょ は

ふるえ き ながら

こたえ ました。

She responded, trembling and weeping,

わかれて もらえ なければ、

 わたし は

 ぬ こと に なる でしょう。』

--"If you do not give me a divorce, I shall die! "

かれ は

しばらく だまって い ました。

He remained for a little while silent,


つま が

こんな おどろくような こと を

した のか

理由りゆう を かんがえよう と し ました が

わかり ません。

--vainly trying to think of some cause for this amazing declaration.


感情かんじょう を かお に さ ない で

こたえ ました。

Then, without betraying any emotion, he made answer:

なんの  も ない おまえ を

 親元おやもと に おくかえす の は

--" To send you back now to your people, without any fault on your part,

 ずかしい こと だ と おもう。

would seem a shameful act.

 おまえ の ねがい に 見合みあ

 それなりの 理由りゆう を って くれた なら、……

If you will tell me a good reason for your wish,

 それ が どんな 理由りゆう でも、……

--any reason

 わたし が

 堂々どうどうと 説明せつめい できる ような こと を

 って くれた なら

that will enable me to explain matters honorably,

 わたし は

 離縁状りえんじょう を く こと が できる。

--I can write you a divorce.



 理由りゆう …… それなりの 理由りゆう が なけれ ば、

 わかれる こと は でき ない。

But unless you give me a reason, a good reason, I will not divorce you,

 私達わたしたち の いえ の 名誉めいよ を

 けがす ような こと が

 あって は ならない から』

--for the honor of our house must be kept above reproach."


彼女かのじょ は

はなさ なければならなく なって しまい ました。

And then she felt obliged to speak;


彼女かのじょ は すべて を はなし ました。

and she told him everything,


恐怖きょうふ に くるしみ ながら

さらに くわえ ました。

--adding, in an agony of terror,


 あなた に はなし ました から、

 わたし は ころされ ます。

--Now that I have let you know, she will kill me!

 わたし を ころし ます。』

--she will kill me! . . ."

さむらい は

勇気ゆうき が あり

もの など

しんじる ような おとこ では なかった の ですが

Although a brave man, and little inclined to believe in phantoms,

一瞬いっしゅん とても おどろき ました。

the samurai was more than startled for the moment.


簡単かんたんで 自然しぜんな 説明せつめい が

すぐに おもかび ました。

But a simple and natural explanation of the matter soon presented itself to his mind.

かれ は い ました。

『おまえ は いま

 とても 神経質しんけいしつ に なって いる。

"My dear," he said, "you are now very nervous;


 つまらない はなし を した もの が

 いる の だろう。

and I fear that some one has been telling you foolish stories.

 ただ この いえ で、

 へんな ゆめ を た という だけ で、

 わかれる こと は でき ない。

I cannot give you a divorce merely because you have had a bad dream in this house.


 わたし が 留守るす の あいだ

 その ように くるしんで いる のは、

 本当ほんとうに かわいそう だ。

But I am very sorry indeed that you should have been suffering in such a way during my absence.

 今夜こんや も

 わたし は しろ へ か なければならない。

To-night, also, I must be at the castle;


 おまえ を 一人ひとり には し ない。

but you shall not be alone.

 家来けらい 二人ふたり に

 おまえ の 部屋へや で

  ない で

 見張みはり を する ように

 命令めいれい しよう。

I will order two of the retainers to keep watch in your room;


 安心あんしん して ねむれる だろう。

and you will be able to sleep in peace.

 二人ふたり とも よい おとこ だ。

They are good men;


 けて くれる』

and they will take all possible care of you."

おっと が

ふかい おもいやり と 愛情あいじょう を こめて

はなして くれた ので

Then he spoke to her so considerately and so affectionately

彼女かのじょ は

自分じぶん の 恐怖きょうふ が

ほとんど ずかしく なり ました。

that she became almost ashamed of her terrors,


この いえ に いよう と 決心けっしんし ました。

and resolved to remain m the house.



わかい つま に つけられた 二人ふたり の 家来けらい は

The two retainers left in charge of the young wife were

おおきな からだ で

勇気ゆうき が あり

純心じゅんしんな おとこたち でした。

big, brave, simple-hearted men,

おんな や 子供こども の 警護けいご を

した 経験けいけん も あり ました。

--experienced guardians of women and children.

花嫁はなよめ を

元気げんきづける ため に

彼女かのじょ に

面白おもしろい はなし を し ました。

They told the bride pleasant stories to keep her cheerful.

彼女かのじょ は

二人ふたり と

ながあいだ はなし を し ました。

She talked with them a long time,

かれら の 冗談じょうだん に わら

laughed at their good-humored fun,


恐怖きょうふ を わすれて しまい ました。

and almost forgot her fears.

彼女かのじょ が

る ために よこ に なる と

When at last she lay down to sleep,

二人ふたり の さむらい は

屏風びょうぶ の うしろ の

部屋へや の すみ に すわって

the men-at-arms took their places in a corner of the room, behind a screen,


 を はじめ ました。

and began a game of go,(1)

(1) A game resembling draughts, but much more complicated.


彼女かのじょ を こさ ない ように

小声こごえ で はなして い ました。

--speaking only in whispers, that she might not be disturbed.

彼女かのじょ は

幼児ようじ の ように ねむり ました。

She slept like an infant.




うしこく に

彼女かのじょ は 恐怖きょうふ で うめき ながら

 を さまし ました。

But again at the Hour of the Ox she awoke with a moan of terror,

あの すず が

こえた の です。

--for she heard the bell!

それ は もう

ちかく まで て い ました。

... It was already near,


さらに ちかづいて  ました。

and was coming nearer.

彼女かのじょ は

き ました。

She started up;

彼女かのじょ は

さけび ました。

she screamed;


その 部屋へや に

もの が うごく 気配けはい は

なにも あり ません でした。

--but in the room there was no stir,


 の ような しずけさ が ……

--only a silence as of death,

して いく しずけさ ……

--a silence growing,

く なって いく しずけさ ……

--a silence thickening.

彼女かのじょ は

さむらい の ところ へ

はしってき ました。

She rushed to the men-at-arms:

二人ふたり は

碁盤ごばん の まえ に すわった まま

すこし も うごか ない で

たがい に 相手あいだ を じっと て い ました。

they sat before their checker-table, --motionless, --each staring at the other with fixed eyes.

彼女かのじょ は

二人ふたり に さけび ました。

She shrieked to them:

二人ふたり を ゆりうごかし ました。

she shook them:


かれら は

こおりついた ように

じっと して い ました。

they remained as if frozen. . . .



かれら は つぎ の ように い ました。

Afterwards they said that

すず が こえた ……

they had heard the bell,

花嫁はなよめ の さけび も こえた ……

--heard also the cry of the bride,

こそう と して

ゆりうごかした のも わかって いた ……

--even felt her try to shake them into wakefulness;


うごく こと も、しゃべる こと も

でき なかった。……

--and that, nevertheless, they had not been able to move or speak.

その 瞬間しゅんかん から

From the same moment

かれら は

く こと も る こと も

でき なく なった の です。

they had ceased to hear or to see:

くろな ねむり が

かれら を とらえて しまった の です。

a black sleep had seized upon them.


 が けて

かえって た おっと が

花嫁はなよめ の 部屋へや に はいる と

Entering his bridal-chamber at dawn,

だまり の なか に

わかい つま の よこたわって いる の が

えかかった あかり で

え ました。

それ は

くび の ない 死体したい でした。

the samurai beheld, by the light of a dying lamp, the headless body of his young wife, lying in a pool of blood.

だまり:a pool of blood

二人ふたり の 家来けらい は

ちかけ の  を まえ に して

すわった まま

ねむって い ました。

Still squatting before their unfinished game, the two retainers slept.

主人しゅじん の さけび を いて

At their master's cry

かれら は き ました。

they sprang up,


ゆか の うえ の

おそろしい 出来事できごと を

茫然ぼうぜん と て い ました。

and stupidly stared at the horror on the floor. . . .


くび は

どこにも 見当みあたり ません。

The head was nowhere to be seen;

その すさまじい きず は、

くび が られた の では なく

ちぎりられた こと を

あらわして い ました。

--and the hideous wound showed that it had not been cut off, but torn off.

 の あと は

部屋へや から 縁側えんがわ の かど まで

つづいて い ました。

A trail of blood led from the chamber to an angle of the outer gallery,

雨戸あまど は

引裂ひきさかれて い ました。

where the storm-doors appeared to have been riven apart.

三人さんにん は

 の あと を たどって

にわ に  ました。

The three men followed that trail into the garden,

草地くさち を とおぎ ……

砂場すなば を とおぎ ……

--over reaches of grass, --over spaces of sand,

あやめ で かこまれた いけ に 沿って すす

--along the bank of an iris-bordered pond,

すぎ と たけ の くらい かげ を すすみ ました。

--under heavy shadowings of cedar and bamboo.


かど を がる と


こうもり の ように 

魔物まもの が

まえ に あらわれ ました。

And suddenly, at a turn, they found themselves face to face with a nightmare-thing that chippered like a bat:

それ は

ながあいだ められて いた

おんな の 姿すがた でした。

はか の まえ に 

the figure of the long-buried woman, erect before her tomb,

片方かたほう の  に すず を 

--in one hand clutching a bell,

もう 一方いっぽう の  に

 の したたる くび を

って いた の です。

in the other the dripping head.


三人さんにん は

だまって って い ました。

. . . For a moment the three stood numbed.


一人ひとり の さむらい は

念仏ねんぶつ を となえ ながら、

かたな を いて

その おんな の からだ を

り ました。

Then one of the men-at-arms, uttering a Buddhist invocation, drew, and struck at the shape.


それ は 地面じめん に くずれ ました。

きょうかたびら、ほねかみ が

散乱さんらん し ました。

Instantly it crumbled down upon the soil, --an empty scattering of grave-rags, bones, and hair;

すず が

り ながら

ころがり ました。

--and the bell rolled clanking out of the rum.


筋肉きんにく の ない みぎ は、

手首てくび から はなれても


のたうって い ました。

But the fleshless right hand, though parted from the wrist, still writhed;

その ゆび は


 の したたる くび を つかんで い ました。

--and its fingers still gripped at the bleeding head,


黄色きいろ の かに の はさみ が

ちた 果物くだもの を つかんで はなさ ない ように

ひきさき、きざんで い ました。

--and tore, and mangled, --as the claws of the yellow crab cling fast to a fallen fruit. . .


『これ は ひどい はなし だ』

[" That is a wicked story,"

わたし は

これ を かたった 友人ゆうじん に い ました。

I said to the friend who had related it.

んで 復讐ふくしゅう する の なら

 もし やる なら

 おとこ に たいして やる べき だ』

"The vengeance of the dead --if taken at all -- should have been taken upon the man."

おとこ は そう かんがえ ます』

"Men think so,"

かれ は こたえ ました。

he made answer.


 それ は おんな の かんかた では あり ません』

"But that is not the way that a woman feels.……"

かれ の った こと は ただしかった。

He was right.]

Reading Japanese Literature in Japanese
This series is for the people/students who want to learn Japanese.