JLPT N4: Japanese Short Stories
仙女(Fairy)
芥川龍之介
昔、ある田舎に
若い男性が、一人、住んでいました。
彼は
家の中で
本ばかり読んでいました。
彼の家の隣に
若い女が一人、
住んでいました。
とても、美しい女でした。
彼は
いつも、
この若い女のことを、
知りたいと思っていました。
彼女が、どこから来たのか、
何をして、生活しているのか
誰も、知らなかったのです。
ある風のない、春の日の夕方でした。
彼が
外へ出てみると、
この若い女が、大きな声で、
何か、言っているのが、
聞こえました。
彼は
どうしたのだろう、と思いながら、
彼女の家の前へ行ってみました。
すると、
彼女は、とても怒って、
一人の、おじいさんの頭を
叩いているのです。
(叩く:to hit)
しかも、
おじいさんは、その若い女に
謝っているのです!
それでも
彼女は、
おじいさんの白い髪の頭を
叩いていました。
彼は、言いました。
「これは、どうしたのです?
こんな、おじいさんを叩かなくても
いいじゃありませんか!」
彼は
彼女が、おじいさんを叩くのを
止めようとしました。
「自分より年をとった人を叩くのは
良くないことですよ」
若い女は言いました。
「私より年をとった人を?
この男は、私よりも、若いのですよ」
「このおじいさんが、あなたより、若い?」
「ええ、そうです。
わたしは、この男の母親(mother)ですから」
彼は驚いて
彼女の顔を見ました。
彼女は、やっと
叩くのを止めました。
とても若くて、美しい彼女は、
彼をまっすぐに見て、
こう言いました。
「この息子は、
私の言うことを聞きません。
息子は、
私の言うことを聞かないで、
自分の好きなことばかり、していました。
だから、
年をとってしまったのです」
「でも、……
このおじいさんは、もう七十くらいでしょう。
そのおじいさんの母親だという、あなたは、
いくつなのですか?」
「私ですか?
私は、三千六百歳です」
彼は
この言葉を聞いて、
この美しい隣の女が
仙女(fairy)だったことを
知りました。
しかし、
その言葉と一緒に
その美しい彼女は
どこかへ、消えてしまったのです。
春の日の、明るい光の中に、
おじいさんは、一人、立っていました。
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