夏目漱石(Soseki Natsume)の
『夢十夜(Ten Nights of Dreams・第三夜(The Third Night)』を
読む
『第三夜』(The Third Night)を読んでみましょう。
『第一夜』は、とても美しい話でした。
『第三夜』は、怖い話です。
こんな夢を見た。
六歳の子供を
背負っている。
(背負う:to carry … on my back)
私の子供である。
ただ、不思議な事に
知らない間に
子供は、目が見えなくなっていた。
私が
おまえは、いつ、目が見えなくなったのか
と尋ねると
昔からだ、と答えた。
声は子供の声だったが、
話し方(diction)は、大人である。
六歳の子供を
背負っている。
(背負う:to carry … on my back)
私の子供である。
ただ、不思議な事に
知らない間に
子供は、目が見えなくなっていた。
私が
おまえは、いつ、目が見えなくなったのか
と尋ねると
昔からだ、と答えた。
声は子供の声だったが、
話し方(diction)は、大人である。
「私」は、子供を背負って
夜、道を歩いています。
まわりに、人はいません。
「私」と、その子供、二人だけです。
まわりに、家も何もありません。
田んぼ(paddy-fields)の中です。
そして、
子供は目が見えないのです。
左右は青い田んぼである。
道は細い。
暗い中に
鳥の姿が
時々見える。
「田んぼに入ったね」と
背中で子供が言った。
「どうして、わかる」
と、私が尋ねると
「だって、鳥が鳴くから」
と答えた。
すると鳥が
本当に二度ほど鳴いた。
***
私は
自分の子供なのに
少し怖くなった。
こんなものを背負っていては
これから、何が起きるか、わからない。
どこかに捨てる所はないだろうかと
向こうを見ると
暗い中に大きな森が見えた。
あそこに捨てようと思った途端に、
背中の子供が
「ふふん」と言った。
「何が、おかしい?」
と尋ねたが、
子供は返事をしなかった。
ただ
「お父さん、重いか?」
と言った。
「重くない」
と答えると
「すぐに重くなるよ」
と言った。
道は細い。
暗い中に
鳥の姿が
時々見える。
「田んぼに入ったね」と
背中で子供が言った。
「どうして、わかる」
と、私が尋ねると
「だって、鳥が鳴くから」
と答えた。
すると鳥が
本当に二度ほど鳴いた。
***
私は
自分の子供なのに
少し怖くなった。
こんなものを背負っていては
これから、何が起きるか、わからない。
どこかに捨てる所はないだろうかと
向こうを見ると
暗い中に大きな森が見えた。
あそこに捨てようと思った途端に、
背中の子供が
「ふふん」と言った。
「何が、おかしい?」
と尋ねたが、
子供は返事をしなかった。
ただ
「お父さん、重いか?」
と言った。
「重くない」
と答えると
「すぐに重くなるよ」
と言った。
「私」は、
夜、子供を背負って
誰もいない、田んぼの中を
歩いています。
そして、その子供を
捨てようとしているのです。
子供を捨てるために
森に向かって、歩いているのです。
しかし、
なかなか、森に着きません。
「私」が
歩きながら、困っていると
背中の子供が、
言います。
私は、
何だか嫌になった。
早く森へ行って
捨ててしまおう
と思って急いだ。
「もう少し行くと、わかる。
――ちょうど、こんな晩だった」
と背中で子供が言っている。
「何が?」
と大きな声で
尋ねた。
「何が?
それは知っているだろう」
と子供は答えた。
すると
私は何か知っているように
思った。
けれども
はっきりとは、わからない。
ただ、こんな晩だったように
思った。
そして
もう少し行けば、わかるように
思った。
わかると、大変だ
とも思った。
大変だから、
わからないうちに
早く捨てようと思った。
捨てて安心しなければならない
と思った。
私は、森へ急いだ。
何だか嫌になった。
早く森へ行って
捨ててしまおう
と思って急いだ。
「もう少し行くと、わかる。
――ちょうど、こんな晩だった」
と背中で子供が言っている。
「何が?」
と大きな声で
尋ねた。
「何が?
それは知っているだろう」
と子供は答えた。
すると
私は何か知っているように
思った。
けれども
はっきりとは、わからない。
ただ、こんな晩だったように
思った。
そして
もう少し行けば、わかるように
思った。
わかると、大変だ
とも思った。
大変だから、
わからないうちに
早く捨てようと思った。
捨てて安心しなければならない
と思った。
私は、森へ急いだ。
これは、不思議な会話です。
「私」は、
今から、子供を捨てようとしています。
しかし、
子供は、
「自分は昔、捨てられたのだ」
と言っています。
「私」にとって未来のことが、
子供にとっては過去のことなのです。
そして、
「私」も
自分の過去を思い出そうとします。
しかし、
思い出すことができません。
思い出すのが怖いのです。
やがて、
「私」は、森の中に入ります。
そして
一本の杉(cedar)の木の前に
来ます。
そこで、
子供が言います。
「ここだ、ここだ。
ちょうど、その杉(cedar)の根のところだ」
雨の中で
子供の声は
はっきり聞こえた。
私は思わず
歩くのを止めた。
私は、もう
森の中にいた。
少し先にある黒いものは
たしかに、子供の言う通り
杉の木だった。
「お父さん、
その杉の根のところだったね」
「うん、そうだ」
と思わず答えてしまった。
***
「百年前だね」
と子供が言った。
なるほど
百年前だと思った。
「おまえが、私を殺したのは
今から、ちょうど百年前だね」
と子供が言った。
この言葉を聞くと、
すぐに、思い出した。……
今から百年前
こんな暗い夜に、
この杉の根で、
一人の、目の見えない子供を
殺した。
私は、人を殺した。
そう思うと、突然
背中の子供が
地蔵(a god of stone)のように重くなった。
You can Read Japanese Literature in Japanese
Learning to Read Japanese
0 件のコメント:
コメントを投稿