『人間失格』(No Longer Human)を読む
太宰治(1909-1948)の
『人間失格』(No Longer Human)を読んでみましょう。
これは、「葉蔵」という
一人の男の人生を
描いています。
子供の頃、学生時代、
女性との生活、
そして、
最後には病気になります。
話は、
この「葉蔵」の三枚の写真から
始まります。
少し読んでみましょう。
その子供の笑顔は
見れば見るほど
何とも言えない気味の悪いものを
感じる。
(気味の悪い:weird)
そもそも、それは、笑顔ではない。
この子は
少しも笑ってはいないのだ。
なぜなら、
この子は
両方の手のこぶし(fist)を
固く握って
立っている。
人間は
こぶしを固く握りながら
笑うことはできない。
猿だ。
猿の笑顔だ。
ただ
顔に
醜いしわ(wrinkle)が
あるだけなのである。
見ている人の気分を悪くさせるような、
そんな奇妙な表情の写真であった。
見れば見るほど
何とも言えない気味の悪いものを
感じる。
(気味の悪い:weird)
そもそも、それは、笑顔ではない。
この子は
少しも笑ってはいないのだ。
なぜなら、
この子は
両方の手のこぶし(fist)を
固く握って
立っている。
人間は
こぶしを固く握りながら
笑うことはできない。
猿だ。
猿の笑顔だ。
ただ
顔に
醜いしわ(wrinkle)が
あるだけなのである。
見ている人の気分を悪くさせるような、
そんな奇妙な表情の写真であった。
子供の頃の写真です。
奇妙な笑顔。
彼は、
笑いたくないのに、
笑っているのです。
彼は、一生、
「人間が理解できない」ことで
苦しみます。
まわりの人が何を考えているのか、
わからないのです。
だから、
彼は、
まわりの人を喜ばせようとします。
そのために、
楽しくもないのに、笑っているのです。
それが、「猿の笑顔」なのです。
別の写真についても読んでみましょう。
たとえば
私がこの写真を見て
目をとじる。
既に私は
この顔を忘れている。
その部屋に座っている男の顔は
思い出せない。
顔の印象は
すっと消えてしまい
どうしても、思い出せない。
絵にならない顔である。
漫画にもならない顔である。
目をひらく。
あ、こんな顔だったのか
と思い出す。
思い出しても
よろこびさえない。
まるで、
目をひらいて、その写真を再び見ても
思い出せない、
そんな顔である。
そうして
見ただけで、
イライラして、気分が悪くなるような顔である。
「死んだ人間の顔」でも
もっと何か
表情や印象がある。
私がこの写真を見て
目をとじる。
既に私は
この顔を忘れている。
その部屋に座っている男の顔は
思い出せない。
顔の印象は
すっと消えてしまい
どうしても、思い出せない。
絵にならない顔である。
漫画にもならない顔である。
目をひらく。
あ、こんな顔だったのか
と思い出す。
思い出しても
よろこびさえない。
まるで、
目をひらいて、その写真を再び見ても
思い出せない、
そんな顔である。
そうして
見ただけで、
イライラして、気分が悪くなるような顔である。
「死んだ人間の顔」でも
もっと何か
表情や印象がある。
これは、
彼が病気になって、
生活できなくなった後の写真です。
生きていても、
その顔の表情から
「生きている何か」を感じることができない
そんな写真なのです。
この物語は
そんな「葉蔵」の人生の話です。
ここまでを読んで、
暗い話だ
と思ったかもしれません。
あるいは、
この小説のあらすじ(outline)を読んで
そう思った人がいるかもしれません。
もちろん
明るい話ではないでしょう。
とても、苦しい話です。
それは、太宰治が感じていた
「苦しさ」でしょう。
そして、
それは、
現代の多くの人間が持っている
「苦しさ」でしょう。
多くの人が、人に言えないまま、
心の中に持っている「苦しさ」……
だから、
現代の多くの人が、
この小説を読むのだと思います。
そして、
そこに、「希望」を感じるのだと思います。
ここに書かれているのは
「絶望」(despair)ではないと思います。
この小説を読むと
「苦しくても生きるべきだ」
と、思ってしまうのです。
さて、
この葉蔵の苦しみの原因の一つは
父にあるのでしょう。
葉蔵が子供の頃、
父との間で起きたことを
読んでみましょう。
父は、
国会の議員(a member of the Diet)を
しています。
葉蔵や家族は、
青森に住んでいますが、
父は、ほとんど、東京にいます。
ある日、
父は、たくさんの子供を集めて
どんな(東京の)「おみやげ」が欲しいかと
尋ねます。
みんな、いろいなものを答えますが、
葉蔵だけは、
答えられません。
何が欲しい?
と聞かれると
とたんに
何も欲しくなくなるのでした。
どうでもいい
自分を楽しくさせるものなんかない
と思ってしまうのです
(どうでもいい:I don't care)
と、同時に
人から与えられるものは
どんなに自分の好みに合わなくても
それを断ることが出来ませんでした。
嫌なことを、嫌と言えないのです。
また、好きなことにも、
言いようのない恐怖を感じるのです。
そして、苦しむのでした。
つまり、自分には、
自分が欲しいものを選ぶ力がないのです。
これが
自分の「恥(shame)の多い人生」の
原因の一つだ
と思います。
***
自分が黙っているので、
父の機嫌が悪くなりました。
「やはり、本か?
浅草の仲店に
お正月の獅子舞いの獅子で
子供が遊ぶのにいい大きさのが
売っていたけど
欲しくないか?」
(正月:New Year)
(獅子舞い:a lion dance(獅子:lion))
欲しくないか?
と言われると
もう駄目なんです。
「本が、いいでしょう」
一番上の兄は
まじめな顔をして
言いました。
「そうか」
父は
がっかりした顔で
何も書こうともせずに
その手帳(notebook)を閉じてしまいました。
と聞かれると
とたんに
何も欲しくなくなるのでした。
どうでもいい
自分を楽しくさせるものなんかない
と思ってしまうのです
(どうでもいい:I don't care)
と、同時に
人から与えられるものは
どんなに自分の好みに合わなくても
それを断ることが出来ませんでした。
嫌なことを、嫌と言えないのです。
また、好きなことにも、
言いようのない恐怖を感じるのです。
そして、苦しむのでした。
つまり、自分には、
自分が欲しいものを選ぶ力がないのです。
これが
自分の「恥(shame)の多い人生」の
原因の一つだ
と思います。
***
自分が黙っているので、
父の機嫌が悪くなりました。
「やはり、本か?
浅草の仲店に
お正月の獅子舞いの獅子で
子供が遊ぶのにいい大きさのが
売っていたけど
欲しくないか?」
(正月:New Year)
(獅子舞い:a lion dance(獅子:lion))
欲しくないか?
と言われると
もう駄目なんです。
「本が、いいでしょう」
一番上の兄は
まじめな顔をして
言いました。
「そうか」
父は
がっかりした顔で
何も書こうともせずに
その手帳(notebook)を閉じてしまいました。
葉蔵は、
父の機嫌が悪くなったことが
恐ろしくなります。
父に何をされるか、わからない
と思います。
そう思うと
とても怖くなりました。
そこで、
彼は、父を喜ばせるために、
夜、
誰にも見つからないように
父の手帳(notebook)に、
「シシマイ(獅子舞い)」と書きます。
彼は、
「獅子舞い」など、欲しくなかったのです。
それでも、
彼は、父を喜ばせようとします。
そして、
それは、成功します。
東京から帰って来た父は
とても喜んでいます。
「仲店の、おもちゃ屋で
この手帳を開いたら
これ、ここに
シシマイ、と書いてある。
これは
私の字ではない。
何だろう、と思いました。
そして
わかりました。
これは
葉蔵のいたずらですよ。
あいつは
私が聞いた時には
黙っていたが
あとで
獅子が欲しくなったんだね。
何しろ
どうも
あれは
変わったやつですからね。
何も言わなかったのに、
ちゃんと書いている。
そんなに欲しかったのなら
そう言えばよいのに……。
私は
おもちゃ屋の前で笑いましたよ。
葉蔵をここへ呼びなさい」
この手帳を開いたら
これ、ここに
シシマイ、と書いてある。
これは
私の字ではない。
何だろう、と思いました。
そして
わかりました。
これは
葉蔵のいたずらですよ。
あいつは
私が聞いた時には
黙っていたが
あとで
獅子が欲しくなったんだね。
何しろ
どうも
あれは
変わったやつですからね。
何も言わなかったのに、
ちゃんと書いている。
そんなに欲しかったのなら
そう言えばよいのに……。
私は
おもちゃ屋の前で笑いましたよ。
葉蔵をここへ呼びなさい」
父は、
葉蔵の本当の気持ちを
理解していないのです。
そして、
葉蔵は、
このようなことを繰り返しながら、
他人を喜ばせるために、
自分に対して嘘をつく、
という生き方をするようになります。
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